アクティブ運用の誘惑

アクティブ運用の誘惑

アクティブ運用とパッシブ運用

資産運用の分類方法としてアクティブ運用とパッシブ運用があります。ベンチマークとする指数 (S&P 500や日経平均株価などが代表的です) への連動を目指すのがパッシブ運用、それを上回る運用成果を目指すのがアクティブ運用と考えていただければ差し支えありません。

両者のどちらの運用手法を取るかは、投資家の思想にまで直結するため、これまで喧々諤々の議論が行われてきました。

ファイナンス理論が導く最適解

巷での白熱した議論とは裏腹に、ファイナンス理論では十分に分散された効率的なポートフォリオが最適解であると決着がついています。すなわち、パッシブ運用に軍配が上がっています。アクティブ運用はリスクと手数料を増やすだけであり、わざわざ選択する理由がありません。

この根拠となっているのがマーコウィッツの平均・分散フロンティアで、誰にとってもリスク資産のポートフォリオは同じであり、あらゆる資産に分散して投資するのが合理的であることが示されています。さらにトービンの分離定理によれば、リスクを抑えたい人はリスク資産のポートフォリオを変更するのではなく、リスク資産の比率だけを変えることが合理的です。

これらの学問的成果に従えば、大きくリスクを取ってでも資産を増やしたい人も安全に資産を維持したい人も、リスク資産はすべて世界中の資産に分散投資する (現実的な商品としてはVTが比較的近いですが、マーコウィッツの本来の理論に従えば不動産や実物資産も含めるべきです) のが合理的です。リスクを減らしたい人は “安全” とされている銘柄やアクティブ投信にリスク資産を振り向けるのではなく、単に安全資産 (国債など) の比率を上げてリスク資産の比率を減らせば良いのです。なお余談ですが、2016年度税制改正で日本円MMF、公社債投信、利付債、割引債などが株式や投資信託と損益通算できるようになったため、安全資産として現金預金を持つ理由はなくなっています。預金は当面の決済に必要な額のみで十分です。

多くのアクティブ運用で採用されているテクニカル分析も、様々な研究で否定されています。株価はほぼランダムウォークであることが知られており、株価の動きに何らかの系列相関を見出すテクニカル分析の有効性はありません。もちろん、過去の値動きから市場の動向を理解する上では有効かもしれませんが、将来を見通すことやパッシブ運用を上回る運用成果を得ることはできません。

アクティブ運用で勝ちたい誘惑

それでもアクティブ運用に挑む人が減らないのには、いくつもの理由があります。

一つ目の理由は、ファイナンス理論の示す結果が、一見奇妙で直感と乖離していることでしょう。世界中の様々な株式に分散投資するよりも、自分の良く知っている銘柄に集中投資した方が良い成果が得られそうな気がするのは人情です。しかし多くの場合、自分が他の市場参加者よりも正しい判断ができると感じるのは思い込みに過ぎません。

二つ目の理由として、実際にアクティブ運用でパッシブ運用を上回る成果を継続して上げている人が存在することです。ウォーレン・バフェットの存在を知らない投資家はいないでしょう。しかし、これだけ世の中にバフェット氏の投資手法を解説する本が溢れているにも関わらず、匹敵する実績を挙げている人は (自称を除けば) ほとんどいません。この原因は、すべての解説本の内容が不十分か、読者が正しく模倣できていないか、氏の手法に再現性がなく単に運が良かっただけかのいずれかでしょう。

最後の理由は、アクティブ運用そのものの面白さです。株式投資は、ロジェ・カイヨワの定義した遊びの要素のうち、競争 (Agôn) と運 (Alea) をバランス良く含む、洗練された競技 (Ludus) です。これが面白くないわけがありません。ゲームで対戦相手を出し抜く快感が損得感情を上回ることは、友人と握るチョコレート一枚のために何十万円のゴルフクラブを買う人や、身内の小銭の賭け麻雀のために膨大な時間をかけて研究する人がいることからも明らかでしょう。さらに、株式市場では参加者がほぼ全員が真剣です。お金をかけない遊びでは手を抜く人が出て興醒めですが、株式市場は参加者の巧拙はあれど、常に真剣にならざるを得ません。

どの理由にせよ、アクティブ運用にのめり込む心理はあまり合理的なものではありません。それでも抗いがたい魅力がある危険な娯楽であることは間違いなく、適度な距離感を持った付き合いが求められます。

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