カネグリでアーリーリタイアの試算をしてわかったこと

カネグリでアーリーリタイアの試算をしてわかったこと

カネグリを作った理由

先日、アーリーリタイア試算ツール カネグリを公開しました。これは、自分を含むアーリーリタイア予備軍が、リタイア後の資金繰りが破綻しないかを事前に検討するためのツールです。

もちろん、世の中にはこのような試算ツールは多数あります。しかしながら、自分の求める以下の機能を持ったツールがなかったため、やむなく自作することとなりました。

  • 株式や債券の利回りのゆらぎを考慮した試算ができること
  • 日本円での生活を前提に、為替変動を考慮した試算ができること
  • インフレや将来の収入・支出を考慮した試算ができること

同じ種類の悩みを抱えている方々にも広くご利用いただければと思います。

カネグリでわかること

このカネグリで試算をすると、さまざまな知見が得られます。それは、単純にいくら資産があれば十分かということだけではなく、アーリーリタイアにはどのような準備や心構えが必要かといった点を含みます。

それでは、特に重要と思われる知見を見てみましょう。

4%ルールの危うさ

リタイアする人が資産を取り崩す指針として有名なものに4%ルールがあります。これは、ファイナンシャルプランナーのWilliam P. Bengenが1994年に発表した論文、”Determining Withdrawal Rates using Historical Data” を根拠としています。その論文内で、最初の資産総額の4%をインフレ調整しながら毎年取り崩しても、株式と債権を半々で運用して過去に例がないような事象が起きなければ、最低33年、多くは50年以上資産が枯渇しないことを示しています。

Assuming a minimum requirement of 30 years of portfolio longevity, a first-year withdrawal of 4 percent, followed by inflation-adjusted withdrawals in subsequent years, should be safe. In no past case has it caused a portfolio to be exhausted before 33 years, and in most cases it will lead to portfolio lives of 50 years or longer.

Bengen, William P., “Determining Withdrawal Rates Using Historical Data,” Journal of Financial Planning, pp.14–24.

では、現代の日本で同様に4%の資産を毎年取り崩しても破綻しないのでしょうか。カネグリで比較してみます。ただし、上記論文とカネグリとはシミュレーション手法や前提条件に以下の差異があることに留意してください。

  • 論文では1926年から1976年のデータを使用していますが、カネグリでは1971年から2019年のデータを使用しています
  • 論文では tax-deferred accountsの使用を前提に課税されないものとしていますが、カネグリでは20%課税後の生活費で生活するものとします。すなわち、実質的に4%ではなく3.2%で生活することとなります
  • 論文では株式と債権が半々のポートフォリオを組んでいますが、カネグリでは日本株式、米国株式、日本債権、米国債権を各25%とする四資産均等のポートフォリオとします
  • 論文では過去の連続した期間のデータを順番に適用していますが、カネグリでは一年ごとに過去の期間からランダムな一年のデータを選択しています

シミュレーションを行う際のパラメータは以下の通り設定します。

  • 現在の資産総額を100,000,000円
  • 生活費は3,200,000万円/年 (税引前4,000,000円/年)
  • ポートフォリオは日本株式、米国株式、日本債権、米国債権を各25%とする四資産均等
  • 年金などの追加収入はなし

この条件でシミュレーションを行うと以下の結果となります。もちろん、カネグリに同じパラメータを入力することで追試が可能です。

  • 12年目頃から破綻するケースが発生
  • 28年目頃に半数が破綻
  • 50年目生存率は14%程度

これは、とても自信を持ってリタイアできるとは言い難い結果です。アーリーリタイアとなればなおさらです。

リタイア直後の暴落・為替変動の影響の大きさ

このあまり嬉しくない結果を招いている最大の要因は、リタイア直後の株価暴落や為替変動です。

1971年から2019年のデータを眺めてみると、四資産に分散してもなお致命的なダメージを受けている年があることに気が付きます。例えばリーマン・ショックが発生した2008年、日本株式・米国株式共に40%超下落しています。さらに同年は約17%の円高が米国投資へ追い打ちをかけており、四資産均等投資でも日本円ベースで約27%の損失を受けています。

余裕資金で長期投資を行う場合はこのような悪夢の年があっても翌年以降の回復をじっと待つことが可能です。しかしながらアーリーリタイアを行った直後にこのような年に当たってしまうと、暴落局面での資産取り崩しを余儀なくされてしまい、大きな痛手となります。

インフレリスクの大きさ

もう一つの大きな要因としてインフレがあります。バブル崩壊後の日本のインフレ率は平均して0.2%程度であり時にはマイナスを記録している (ここでは、消費者物価指数の変動をインフレ率とみなしています) ためインフレは軽視されがちです。しかしながら、上記のシミュレーションで用いている1971年から2019年の日本のインフレ率 (消費者物価指数の変動率) は平均して2.5%程度であり、 これを無視してアーリーリタイアを試算することは大きなリスクを伴います。

定期収入の重要性

さらに触れておくべきことは定期収入の重要性です。ここまでのシミュレーションでは資産運用以外の収入は一切ないものと仮定していましたが、わずかでも収入があるセミリタイアであれば状況は改善します。例えば、扶養控除未満程度でも収入がある場合はどうでしょう。40歳でアーリーリタイアするとして、65歳までは1,000,000円/年の収入が得られると仮定した場合の結果は以下の通りとなります。

  • 14年目 (54歳) 頃から破綻するケースが発生
  • 34年目 (74歳) 頃に半数が破綻
  • 50年目生存率は23%程度

まだまだ安心してリタイアとは言えないものの、状況が改善することがわかります。これにさらに他の不労所得や年金収入を積み上げられれば、アーリーリタイアが現実のものとして見えてきます。

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