コツコツドカンとは?
株式投資をしていると、”コツコツドカン” という言葉を耳にすることがあります。少しずつコツコツと利益を積み重ねていながら、突然大きな損失にドカンと見舞われる状況です。この現象は、主に不十分なリスク管理や暴落時の不適切な行動によって起こります。表面化しない (しにくい) だけで、潜在的に大きなリスクを抱えている投資手法を採用している場合が典型的です。
思考実験
世の中に必勝と称する株式投資手法は数多ありますが、その多くは潜在的に大きなリスクを抱えているだけに過ぎません。
例えば思考実験として、毎回ボタンを押すたびに1円が出てくる不思議なボタンを考えてみましょう。一見、ノーリスクで毎回1円を得ているように見えます。しかしながら、実は10,000回に1回、10,000円を失うことがある恐ろしいボタンだったのです! とはいえ、このボタンを押して不幸にして負けてしまってもたかだか10,000円を失うだけです。とても人生に影響がある金額ではありません。
ところが、ボタンの横に “×10” や “×100″、果ては “×10,000″ のスイッチがあったらどうでしょうか。”x10,000” のスイッチをonにすると、押すたびに10,000円が出てくるボタンに早変わりです。体感的にはほぼノーリスクでお金が出てくる魔法のボタンですが、万一負けの目が出てしまった場合は100,000,000円 (一億円) を失い人生の破滅です。10,000回に1回の負けなどそうそう出るものではないかと感じるかもしれませんが、繰り返しこのボタンを押した場合、およそ7,000回目 (正確には6,932回目)に負けが出る確率が50%を超えます。少々運が悪い下位5%の人々は、わずか513回目で破綻を迎えます。これは割に合うギャンブルでしょうか?
プットオプション売り
実はこの思考実験に近い投資手法があります。それが、プットオプション売りです。
プットオプション売り (ショートプット) は金融派生商品の一種で、”株価がある特定の行使価格以下に下がった場合に株を売る権利” を市場に売ることを指します (厳密には権利行使期間の満期時にのみ権利行使できるヨーロピアンタイプもありますが詳細は割愛します)。売り手は買い手からプレミアム (料金) を受け取りますが、その代わりに株価が暴落した際に大きな支払いが発生するリスクを負います。これこそが “コツコツドカン” です。
一般にプットオプションを売る場合は万一の損失を一定以下に抑えるため、ヘッジをかけます。たとえば、”ある株を100円で売る権利” を売る場合に、同時に “ある株を90円で買う権利” を買います。これにより、損失が無限に広がらないように保険をかけます。先に説明した不思議なボタンを闇雲に押すのは、こうしたヘッジをかけずにプットオプションを売る (俗に裸売りなどと呼ばれます) のに等しい行為です。
高配当株や社債
意外に思われるかもしれませんが、高配当株や社債もその構造はプットオプションと似通っています。高配当株や社債はいずれも比較的安全な資産のイメージがあり、実際に多くの場合は定期的な安定収入、それも定期預金や国債よりも高い収入をもたらしてくれます。しかしながら、定期預金や国債よりも高い利回りが得られるのにはきちんと理由があり、それがごくまれに大きな損失が発生するリスクです。
そもそも金融というプロが鎬を削る場で、なんの理由もなしに定期預金や国債よりも高い利回りが得られることはありません。高い利回りに加えて、さらに安定した配当までを求めるのであれば、そのひずみが元値の下落という形で現れるのは当然の帰結です。
終わりに
コツコツと安定した収入を求めるのは人間の性といえます。しかしながら、コツコツを求めると、そのしわ寄せがドカンとした下落という形で現れがちです。そうした本能に逆らい不安定に目をつむることが、逆に暴落を避けることになるというのは皮肉なものです。