アーリーリタイア試算ツール カネグリをデザインする際に悩んだ点の一つがインフレ率をどのように扱うかでした。リリースした2020年8月の時点では極めて低いインフレ率が続いており、先行しているアーリーリタイア試算用のツールにもインフレを考慮していないものが多く見られました。比較的良心的なツールであっても、任意に固定的なインフレ率を設定できるくらいがせいぜいでした。しかしながら海外に目を向けてみると順調にインフレを続けている方が普通で、長期的なデータがあるアメリカの事情を見るとアーリーリタイアは長期的にはインフレとの戦いであることがはっきりしていました。
このような事情から、アーリーリタイア試算ツール カネグリはインフレを加味してシミュレーションをするように設計しました。インフレ率と呼ばれる指標は様々なものがありますが、カネグリでは、消費者物価指数 (総合指数) を選択しました。アーリーリタイアの試算を行うというツールの性質上、日々の生活のための資産の取り崩しをシミュレーションする必要がありますが、この生活費のインフレを表現するうえで消費者物価指数がもっとも現実に即しているためです。なお、消費者物価指数にはいくつか種類がありますが、そのうちの総合指数は消費者が購入する財やサービス全体のインフレ率を表す指標です。その他に生鮮食品やエネルギーを除いた指標もありますが、生活費を考える上では総合指数がもっとも適当です。
アーリーリタイア試算ツール カネグリは1971年からの消費者物価指数を使用していますが、1970年代のデータを見ると年率二桁のインフレが当たり前のように現れています。このような高いインフレ率は1990年代以降は鳴りを潜めていますが、いつ同様の事態が起きるかは誰にもわかりません。事実、米国では2028年に約8%に達する高いインフレ率を記録しており、日本にもその影響が飛び火しています。アーリーリタイアのような長期戦でインフレが来ないと考えるのはあまりに楽観的過ぎますが、いつインフレが来るかを予測するのも困難です。結局はカネグリのように確率的なシミュレーションを行う他はありません。