本多静六と名著 “私の財産告白”
資産構築に励んでいる方ならば、一度くらいは本多静六の名前を耳にしたことがあるかもしれません。明治から昭和にかけて東大教授・林学者として多大な功績を残し “公園の父” とまで呼ばれるようになった傍ら、投資により巨万の富を築いた大人物です。著作も多岐にわたり、資産構築や投資に関する著書も多く遺しています。中でも氏がその財産を築くまでを語った私の財産告白は今も読みつがれる名著で、様々なフォーマットで読むことができます。
本多式「四分の一」貯金
本多静六の生き方は現代の基準で見ると相当に問題のあるものです。財産を構築するための元手を作るために倹約をするのは良いとしても、
月末になるとその現金がなくなってくるので、毎日胡麻塩ばかりで済ませたことさえある。それでも大人たちはなんともなかったが、頑是ない子供たちは正直だ。「お母さん、今日も胡麻塩?」などと泣き顔をした。それを家内が、「もう三つ寝るとオトトを買ってあげますよ」となだめなだめしていたが、私は平気とはいいつつ、さすがにこれには断腸の思いをした。
という記述を見ると、なかなか凡人には真似できないものです。しかしながらそのような無理な倹約はさておいても、倹約と資産構築の方法論は確かで今でも生かせるものです。だからこそロングセラーとして読みつがれているのです。
特に知るべきは、著作の中で度々述べられている本多式「四分の一」貯金です。これは、以下のような非常にシンプルなルールです。
あらゆる通常収入は、それが入ったとき、天引き四分の一を貯金してしまう。さらに臨時収入は全部貯金して、通常収入の基に繰り込む
現代のサラリーマン風に言うと、「月給の25%を貯金。ボーナスは全部貯金。貯金から得られる運用益は通常収入とみなす」といったところでしょうか。なお、氏の著作では税や社会保障の扱いが明確に書かれていないのですが (これはまだ額面と手取りの差が現代ほど大きくない時代背景もあります)、手取りをベースにするのが現実的です。
このルールはボーナスなどの臨時収入を全額貯金するというのがミソで、「四分の一」貯金と言いながらも実際はそれ以上に貯金をしています。ボーナスの金額は企業や団体により大きな差がありますが、中小企業の相場である年間2ヶ月分で計算すると、(12/4 + 2) / (12 + 2) = 35%強を貯金することとなります。6ヶ月分のボーナスが出る大企業であれば、実に (12/4 + 6) / (12 + 6) = 50% を貯金せよ、ということになります。これは相当な倹約です。
貯蓄率とリタイアまでの年数
FIRE (Financial Independence, Retire Early) ムーブメントを起こしたクリスティー・シェンとブライス・リャン夫妻は、貯蓄率によりリタイアにどれくらいの年数がかかるのかを示しています。
もちろん投資リターンにより大きな差は生じますが、本多式「四分の一」貯金を実践することで、貯蓄率35%の場合で約18-38年、貯蓄率50%の場合で13-23年程度でリタイアに十分な資産を築けることがわかります。これを短いと思うか長いと思うかは人それぞれですが、大卒の22歳から働き始める前提でアーリーリタイアと言えるような年齢までに十分な資産を築こうと考えると、本多式「四分の一」貯金は最低ラインといえます。