Fuck You Moneyと職業人としての幸せ

Fuck You Moneyと職業人としての幸せ

Fuck You Money

Fuck You Moneyという言葉があります。これは英語の慣用句で、仕事をしていく上で気に食わないことがあればいつでも “Fuck You” と言って仕事を辞めても生きていくのに困らないだけのお金という意味です。経済的独立 (Financial Independence) に近い概念ですが、もう少し緩く、当面は困らないだけのお金という意味で使われることも多いようです。

多くの人が働いている理由は賃金のためで、気に入らないことがあってもすぐに席を立つわけに行かないのもお金のためです。さらに言うと、長時間あくせく働いて出世を狙うのもお金のためです。誰しも生活があり、それを人質に取られているのです。

ところが、十分なお金があるとしたらどうでしょう。経済的独立と言えるような一生暮らせるだけの財産とは言わないまでも、10年は普通に生活していても困らないだけのお金がある状態を想像してみてください。仕事で無茶な依頼や倫理的にはばかられる指示が来ても、毅然と拒否できるのです。もちろん仕事をしている以上、正当な指示命令にはきちんと従う義務がありますが、それを超えた指図には堂々と筋を通すことができます。これは思いの外重要なことで、仕事の上でのストレスを大きく軽減してくれます。

職業人とサラリーマン

職業人 (Professional) として筋を通して生きていくには、Fuck You Moneyが必ず必要です。私はサラリーマンである以前に研究者であり技術者であると考えていますが、こんなちっぽけなこだわりを貫くにもお金が必要です。勤め先に経済的に依存していては、サラリーマンであることを優先しなければいけないときが必ず来ます。これが悲しい現実です。

私は、職場の技術者でも研究者でもない偉い人から「技術はビジネスの目的を達成するための手段なのだから、常に会社の目的を意識してその手助けとなるような研究開発をするように」との訓示をいただいたことがあります。もちろんサラリーマン研究者として働いているからには勤め先の業務をこなす義務はあり、その意味では正当な要求に聞こえます。しかしそれが述べられた文脈を考えると、言外に「たとえ社会のためになるものであっても、金にならない研究開発は控えるように」という意味が込められているのは明らかでした。幸いにして私の仕事はその偉い人の意向に左右されることがなかったため事なきを得ましたが、そのときにFuck You Moneyを持っていなかったらと思うとぞっとします。

職業人としての幸せ

お金があるということは、興味がないことをやらなくて済むということです。私は幸いにしてお金に余裕がありますが、そうでなければ興味ではなく昇給に繋がるかで仕事を選ぶ場面があったことでしょう。それはそれでサラリーマンとしては立派な態度ですが、職業人や研究者としての幸せには繋がらないことが今ならわかります。私は十分なFuck You Moneyを確保できたおかげで、興味のある研究に没頭できています。

自分が全身全霊を傾ける価値のある仕事 (研究の多くはこの種の仕事であると信じています) は一生を通じてやり続けるべきですが、お金を稼ぐ勤務は一生のうちの一時期に取り組めば十分です。そして価値のある仕事は往々にして多くの人々に良い影響を与え、引きも切らずに求められるものです。

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これが偽らざる今の気持ちです。

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