ひとつだけの頂点を目指すべきか

ひとつだけの頂点を目指すべきか

頂点がひとつの世界は先鋭化する

世の中の組織構造には、頂点がひとつのピラミッド型をしたものが多数あります。古今東西広範に見られるということは、人間の作り上げる組織が持つ普遍的な構造のひとつなのでしょう。

多くのサラリーマン諸氏が努めている企業もそのほとんどがピラミッド構造をしています。昇進をすればするほどその席は少なくなり、役員となる人はほんの一握り。頂点に立つ代表取締役社長はたった一人という狭き門です。それだけに頂点に立った人はそれなりの権力を得たり、さまざまな役得があるわけで、その座を多くの人々が血眼になって争っています。特にある程度ピラミッドを登ってしまった人は途中で諦めてしまうとそこまでの努力が無に介してしまうため、ますます競争にのめり込んでいくという構造です。サラリーマンとして務めたことがある人は、そんな昇進レースに人生を捧げている人を一人くらいは見たことがあるのではないでしょうか。

私自身が身を置いている研究者の世界でも、科学の最先端分野は同じような構造をしています。科学は先人たちが積み上げた山の上に新たな石を積むことで成り立っている以上、同じ山の狭い頂上に多くの研究者が集まって我先にと石を積もうとすれば争いが激しくなるのは当然です。

この種の頂点が一つの世界では、争いが先鋭化します。頂点を目指す以外の道筋がなく周りが皆同じ地点を目指すのに加えて、トップと二番手では扱いが大きく異なるのですから、当たり前といえば当たり前の話です。

頂点が複数ある世界

一方で、頂点が複数ある世界も探せば見つかるものです。

サラリーマンであっても、昇進とは異なる軸で見直すと新たな世界が見えてきます。例えば収入効率で見ると、実は昇進は案外割に合わないものです。昇進してピラミッドを登るに従って一般に業務量は増加しますが、それ以上の昇給があるかというとなかなか無条件にそうとは言い切れません。サラリーマンの方は給与体系を調べて、昇進している方の業務量と天秤にかけてみることをおすすめします (昇給の際には税金や社会保険料を考慮するのを忘れないようにしてください)。特に権力などに思い入れのない方は、下手に出世をするよりも資産運用益を最大化するなどの他の収入増加に時間を割く方が収入効率が良く、幸せになれるかもしれません。

研究者の世界でも、工学の研究は頂点がひとつではありません。産業的な困りごとはそれこそ星の数ほどあり、誰も取り組まないまま放置されている問題がたくさんあります。解決方法も複数あることが多く、すでに取り組んでいる人がいる研究であっても、異なるアプローチであっさりと解決できてしまうことは多いものです。名誉や名声という点では科学の世界に劣るかもしれませんが、解決できれば一攫千金という問題も少なくありません。

どの世界で生きるかを意識的に選択する

ここまで、頂点がひとつの世界の欠点を中心に述べてきました。しかしながら、決してそうした世界で頂点を目指すことを否定するものではありません。組織ピラミッドの頂点に立ちたいという思いがあり、そのためなら大きなリスクを取れるという方は、ひとつの頂点に向かって突き進むのも良いかと思います。

避けなければいけないのは、無意識のうちに頂点を目指すコースに巻き込まれてしまうことです。企業というものは頂点への道を争わせることで成果を上げさせようとする部分がありますので、油断をしていると望む望まないに関わらず先鋭化した争いに加わることになってしまいます。自分がひとつの頂点を目指す世界で戦いたいのか頂点が複数ある世界で生きたいのかを明確にし、意識的に選択することが幸せに繋がります。

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